映像テクノアカデミア

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【映像翻訳】「こんな凄い台詞が書かれていたのです」-映像翻訳を目指す皆さんへ―

2011年7月 8日 13:20

テクノアカデミの開校以来から、「映像翻訳科」の講師をしていただいていた

佐藤一公先生がこのたび勇退されました

 

ご本人曰く「もう年やし、ここらへんでイイヤロ、ほんにツカレタワ」と関西弁で呟かれるのです。ゼンゼン良くはないのですけど、それに佐藤一公節の名講義が聞けなくなるのも、アカデミアにとって大きな痛手なのですが、ご本人のたっての希望となればこれも致し方なし・・・先日関係者一同で色紙に、御礼の言葉を書いてお送りしたのでした。

 

でもここで映像翻訳志望の皆さんに、お伝えしたかったのはこんなことではありません。一公さん(通常私たちはこう呼んでおりました。「どんだけー」の人ではありませんからご注意)が、どれだけすごいことをやっていたか、いや正確に言えば書いていたか、それを少しご紹介いたしましょう。

 

たとえば、こんな作品。

 

皆さんは「事件記者 コルチャック」というシリーズをご存知でしょうか?大昔のシリーズです。

 

私は、偶然1冊だけ当時の録音台本をもっています。いわば、私だけの宝物(捨てないでヨカッタ!)。表紙には録音日昭和51年2月21日と記されています、つまり1976年に日本語版が制作され、日テレで放送されていました。このシリーズの翻訳は、ほかでもない一公さんです。

 

 

コルチャック:いや探らなきゃしようがないんだよ

       バーノンを消した二人組が証拠物件             

             をおれが握ってると思ってさ

       渡せってんだ

       いやなら殺すって

 

ビンセント :脅迫おどしは記者にはつきものだそ   

       んなものにガタついててこのシカゴ 

       でやってけるか

 

コルチャック:しかしテキはほんとにやる気なんだ

             よボス

       こっちへきてみて

       いいからケツもちあげてここまでき

             てよ

       オラオラ早く

 

ビンセント :(ためいき)

       なんだようるせえなあもう

 

コルチャック:窓の外を見てよ

       ほら高架線の下のとこ ネ

       新聞をもったやつが立っているだろ

             う

 

 

コルチャックは通信社の新聞記者、ビンセントはその上役、チンピラに脅迫されているんでしょうね。オフィスの下にあやしき見張りが立って、コルチャックが出てくるのを待っているシーンなのでしょう。

私が驚くのはこの台詞です、まるで日本の刑事ドラマにでも出てくるシーンのような、日本人がそこらへんで喋っているような日本語。こんな台詞が35年も前に書かれていたのです。

 

最近の外国のドラマでは、アドリブ的な台詞が多くなっているにもかかわらず、翻訳された吹替の台詞は直訳調のもの、自然とはほど遠い日本語がたいへん多くなっています。つまりオリジナルと逆行しているのです。

 

コルチャックの台本、つまり私の宝物を眺めるたびに、すでに、昔、昔に、一公さんははるか高みを軽々と飛んでいたと思うと、ただただ「すごい!」と感嘆するよりないのです。

 

岩本令先生の言葉

「なかでも一番手っ取り早かったのは先輩方のドラマを見て素晴らしい言葉を拝借する方法です。一番のターゲットは一公先生です。その頃の私のモットーは「追いつけ一公、打倒一公」実に畏れ多いことで、もちろん追いつけるはずもなく30数年たってもお背中もみえません。」

これは「映像翻訳科」講師メッセージのコーナーの岩本先生の言葉。これはウソでもお世辞でもないと思います。映像翻訳者ならだれでも、一公さんを密かな絶対的目標にしていたのですから。

 

一公先生、吹替の特別講義をぜひ期待しています。台詞を書く極意を教えてください。

 

あんなすごい台詞、どんな翻訳者がこれから書くのだろう?出て来い、出て来い、次の世代を担う若き翻訳者よ!

                           アカ賢でした 

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