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【No.11】「栄光のランナー/1936ベルリン」を翻訳して
杉田朋子
(株)東北新社 音響字幕制作事業部 翻訳室
【 代 表 作 】
代表作/[劇場字幕]…「カリフォルニア・ダウン」「ギリシャに消えた嘘」
[劇場吹替]…「アントマン」「モンスターズ・ユニバーシティ」
[吹替]…「ファーゴ」「サンダーバード ARE GO」
●『栄光のランナー/1936ベルリン』のお話をうかがいます。1936年ナチス独裁政権下で開催されたベルリンオリンピックで、逆境に打ち勝ち4冠を達成したアメリカ人陸上競技選手ジェシー・オーエンスの勇気の実話ということですが、ご覧になっていかがでしたか?
杉田:私自身、スポーツにはあまり興味がなくて…(苦笑)。でも、ナチスについては興味があったんです。どうしてあのようなことが起こってしまったのかということが知りたくて、以前から本を読んだりしていました。
(本編には)少ししか出てきませんが、レニ・リーフェンシュタールのことが好きだったんです。彼女は、ナチスのお抱え映画監督で、ヒトラーの絶大な権力のもとで『意志の勝利』などのプロパガンダ映画を作った人なんですが、映像美はすごいし、音楽の使い方もめちゃくちゃうまいし、これ見せられたらみんな洗脳されちゃうのではと思うくらい、とにかく(映像が)素晴らしいんですよ。ナチスドイツ崩壊後は、ナチスの協力者として政治責任を問われ、彼女はずっと否定し続けるわけなんですが。個人的には彼女にはもっと出てもらいたかったですね。本作は、オリンピックから見たナチスドイツという切り口は、とても新鮮でした。”政治とスポーツ”について考えさせられる映画でした。
杉田:ジェシー・オーエンスが、ベルリンオリンピックで初めて走るシーンですね。上空にナチスの大きなマークがついた飛行船が、声援も聞こえなくなるくらい大きな音で飛んできて、真っ黒い影を競技場に落としていくんです。そのあとにヒトラーが登場し、あの”禁断のあいさつ”をする、そのシーンがこれからドイツがたどる未来を暗示していて、何度見ても鳥肌が立ってしまいます。
●翻訳をして苦労した点などはありましたか?
杉田:まずは、尺が134分と長く、セリフが多かったことです。今まで恵まれていたのか、セリフの少ない作品が多かったので。実話なので、事実の裏取りをしながら進めて、時間がない中、5日間くらいで翻訳をしました。
苦労したシーンは、ナチスによる人種差別だけではなく、アメリカ国内における黒人への差別も多く描かれているんです。黒人の地位向上委員の発言で、オーエンスが出場すれば、アメリカ国内で人種差別にさらされている黒人の全体が、ナチスによる人種差別を認めることにもつながってしまう、という論理を展開するんですが、それをどう翻訳すれば伝わりやすいか悩みました。
●コーチのラリー・スナイダーが主人公ジェシー・オーエンスを技術的に指導するシーンがありますが。
杉田:走り方とか、専門的なことも調べました。コーチは「ピッチ走法」を指導しているけど、「ストライド走法」の方が早いのに!なんて考えながら(笑)。
●言語が、英語とドイツ語ということですが。
杉田:後のIOC会長のアベリー・ブランデージとナチス宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスの会話シーンでは、必ず通訳かレニ・リーフェンシュタールが間に入るんです。その時、(実際の発言を)絶妙にオブラートに包んで通訳するんです。その掛け合いも見どころの一つです。
●今後、どのような作品を翻訳したいですか?
杉田:本作もそうですが、やはり実話に基づくものが好きだし、やりがいもあるので、また翻訳したいです。