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【No.8】「ふたつの名前を持つ少年」を翻訳して

川又勝利

2001年3月 映画翻訳専科卒業
(株)東北新社 音響字幕制作事業部 翻訳室

【 代 表 作 】
「GODZILLA ゴジラ」(劇場字幕)/「サイド・エフェクト」「マイティ・ソー」「キャプテン・アメリカ」「パラノーマル・アクティビティ」シリーズ(字幕)/「ゲーム・オブ・スローンズ」「メンタリスト」「キャビン・イン・ザ・ウッズ」「失われた大地」「トーチウッド 人類不滅の日」(吹替)/「デクスター」「ビッグバン★セオリー」「ギルモア・ガールズ」「スペル」



今回登場していただく川又さんは、上智大学外国語学部の在学中に映像テクノアカデミア5期生として映像翻訳科に入学。
卒業後、外画制作事業部 演出部字幕課へ入社。字幕演出の仕事をしつつ、翻訳の力を認められて翻訳室へ異動し、現在は翻訳室唯一の男性翻訳者として、劇場版からドラマシリーズまで、幅広い作品の翻訳者として大活躍されています。
同時に、映像翻訳科の講師(講師メッセージをご覧ください)としても積極的に後進の育成にも協力いただき、トライアルの採点やイベントでも自らの経験をお話しいただくことも多々あります。

川又さんが劇場字幕翻訳した映画「ふたつの名前を持つ少年」は、今年3本目の東北新社配給作品となります。
戦後70年、アウシュビッツ収容所解放70周年の2015年夏に贈る、苛酷な運命を勇敢に生き抜いたユダヤ人少年の感動の実話です。また、この度この作品が「教育上の価値が高い」として、青年向き、成人向きの対象で「文部科学省特別選定」が決定いたしました。


©2013 Bittersuess Pictures

「ふたつの名前を持つ少年」あらすじ

たった一人で壮絶な運命を生き抜いた少年の感動の実話!

ポーランドのユダヤ人強制住居区から脱走した8歳の少年スルリックは森へと逃げるが、飢えと寒さで行き倒れとなり、ヤンチック夫人に助けられる。スルリックを匿った夫人は少年の誰をも魅了する愛らしさと賢さに気づき、一人でも生き延びられるよう”ポーランド人孤児ユレク”としての架空の身の上話を覚えこませ、追っ手から逃がす。夫人に教わった通りに嘘の身の上を語り、寝床と食べ物を求めて農村を一軒ずつ訪ね歩くユレク。無邪気な笑顔で物怖じしないユレクに救いの手を差し伸べる者、ドアを閉ざす者、利用しようとする者・・・。優しい家族に受け入れられ束の間の平穏をつかみかけても、ユダヤ人であることがばれてしまい、追い立てられるように次の場所へと逃げるユレク。ユダヤ人に生まれただけで、何故こんな目に合わなくてはならないのか。生き別れになった父との約束を胸に、明日の希望を信じてユレクの生命の旅は続くー。

インタビュアー(以下「I」と省略):今日はよろしくお願いします。いよいよ公開になる「ふたつの名前を持つ少年」ですが、川又さんが翻訳者に選ばれた経緯を教えていただけますか?


川又:選ばれたというほどのものではないのですが・・・(笑)
翻訳室で「こういう作品の仕事が来ました!」という募集があり、スケジュール的にも無理なくできるということ、そして事前に作品の内容は知らなかったんですが、調べてみると原作(『走れ、走って逃げろ』岩波書店)があるということを知りました。その原作本のあらすじを読んで、これは面白そうだなと思い、立候補しました。

I:これは実話なんですね。


川又:実話です。映画の最後のシーンにご本人が出演されてます。原作は、作者ウーリー・オルレブがご本人の演説を聞いて感動し、本にまとめたということです。

I:ドイツ語作品ということで苦労はありましたか?


川又:ドイツ語だけではないんです。
第2次世界大戦下のポーランドが舞台で、たった8歳でゲットーから脱走した少年の話なので、作品内ではポーランド語、ドイツ語、イディッシュ語、ヘブライ語、スラブ語の5か国語が話されています。
作業は英文のスクリプトと、英語字幕が載っている北米用DVDの2つを素材に翻訳しました。

しかし英文スクリプトでは、セリフのどこからどこまでがどの言語なのかがわからない。書いてないんです。だからセリフの区切りがわかりづらい。
当然スポッティングから大変でした。英文スクリプトに対応するセリフがどこからどこまでの音になるのか、スクリプトと(DVDの)英文字幕と、幸い原作本の日本語訳もあったので、見比べながら、このシーンはこれを描きたいんだな、とひとつひとつ考えながら作業を進めていきました。そこは苦労しました。
実は作品の中では違う言語同士でもやり取りをしていて、それで成り立っているので、言語の違いに意味を持たせなくても大丈夫なところもありましたが、厳密に知りたいところはポーランド人のネイティブの方にヒアリングしてもらったりしました。

I:なるほど。作品に原作がある場合はいつも読むのですか?


原作『走れ、走って逃げろ』岩波書店


川又:原作本があるときには必ず読みます。原作本を読んでいる読者がいて、その人たちも映画を観るであろうし、そうしたときに違和感があるのはいけませんからね。もちろんキャラクター名も細かくあわせます。
ただ映画化する際には、シーンが入れ替わったり、原作とまったく同じようにはならない場合もあります。けれど原作の世界観であったり、シーン毎で描きたいことは、ちゃんと理解したうえで翻訳しようと思っています。

I:実話に基づいたものを翻訳するという上では、どんなことに気をつけましたか?


川又:史実を扱う場合には、原作を読むだけでなく、ちゃんと自分の中に関連知識を入れておかないといけないなと思っています。
この作品のバックグラウンドに関していうと、もちろん学校で習った歴史知識はありますが、もう一度教科書や資料など読み返して、自分の中の確認のためにも当時の歴史の流れは勉強しなおしました。
今回の映画の本筋は、ユダヤ人の男の子が家族と一緒にゲットーに収容され、そこから逃げ出さなくてはいけなくなって。その逃亡劇のドラマが中心なので、直接は史実が出てくるわけではないけれど、セリフの内容には影響することもあるかなと思いました。

I:今回の逃亡劇ですが本当にこんなことが可能なのか?という内容ですね


川又:映画のために書き下ろしたとしても、こんなに次から次へと試練が待ち受けている話にはできないだろう、というくらい現実の方がドラマチックです。

原作を読んでいるとき、この話は少年文学なんだろうと思っていたら、もうずっとハラハラドキドキしっぱなしだったんです。逃げて逃げて、ようやく安心できる場所に出会ったと思ったら、またすぐ逃げなくてはいけない。ずっとその繰り返しです。
彼は相当ひどい目にも遭っていて、読んでいるこちらも苦しいくらい、同情せずにはいられない。それでも彼は勇気があって、明るさを失わない、これがすごいですよね。
周りの大人の中にも怖い人や冷たい人もいて、裏切られたりもするんだけど、逆にあたたかく優しい人もいる。その人たちの支えもあって、彼は絶対に自分の良さを失わない。それで最後まで突き進んでいくので、重い話なんだけど、暗い気持ちにはならないんですよ。そこに感動するし、応援したくなりました。

I:そういう意味ではロードムービーの要素がありますね。
なぜスルリックは最後まで明るさを失わないでいられたのでしょうか?


川又:映画も原作も、スルリック自身の心の描写は特になくて、客観的に淡々と描かれています。
だからこそ厳しい現実に遭遇するたびに、「うわ、またか!」と心がえぐられます。もともとスルリックがすごくいい子だからという理由はもちろんだろうけど、加えて彼は最後まで人を信じることをやめない、あきらめないからかな。どんなにつらい目にあったとしても。8歳の子供なのに、人間的にすごいなあと思います。

I:最後にお父さんとの別れのシーンがありましたが、あの出来事が生きることへの原動力となっているのでしょうか。


川又:原作ではあのシーンは割と最初の方に描かれています。
お父さんが息子に、これから生きていくうえでの大前提として、ユダヤの名前は捨てて、ポーランド人の名前を使って生きていけ、と言うんです。だけど、名前や家族を捨てたとしても、自分がユダヤ人であることは心の中では絶対に忘れるな、と言っていて、そのとおりにスルリックは生きているんだと思います。

ユダヤ人であるがゆえに、迫害され、家族とも別れ、ひどい目に遭ってきた。それでもなお、自分はユダヤ人であるというアイデンティティを捨てることはない。自分が何者であるかということは、とても強いことなんだと感じました。
日本人として日本で暮らしていると、アイデンティティを意識したことはあまりありません。だけど世界を見渡せば、生まれたところはここだけど、自分は何者なのか?と思っている人はきっとユダヤ人に限らずたくさんいて、じゃあ何をもってアイデンティティというのか?ということを改めて考えさせられた映画でした。

I:宗教を捨てるということは特にユダヤ人にとっては大変なことですよね。


川又:歴史的に永い間自分たちの土地を持てなくて、だけど自分たちの拠り所としてつながっているものだから、一番大事なんだと思います。


©2013 Bittersuess Pictures

I:なぜ今映画化したんでしょうか?


川又:逆に今まで映画化されずに残っていたことに驚いたくらいです。日本ではあまり上映されていないかもしれないですが、アメリカやもちろんヨーロッパなどでは、頻繁に戦争や迫害のことはドキュメンタリーも含めて観る機会は多いと聞きます。忘れてはいけない記憶だからだと思います。

I:この映画をだれに観てもらいたいですか?


川又:すべての人に観てもらいたいです。スルリックと同じ歳くらいの子供から大人まで全員に。こういうことが史実としてあったんだということ、自分のアイデンティティを考えるきっかけになってほしいです。戦争の悲惨さ、不条理さと言うものを感じる意味でも重要かなと思います。

I:多言語以外のところで翻訳で苦労したところ、または心がけたところはありましたか?


川又:そうですね・・・このドラマが持っているパワーが強いなと思ったんです。普通に観ていて、字幕がなくてもストーリーがわかる作品です。字幕なんか忘れちゃうくらいに主人公に同情するし、勇気に感動するし、不条理さに憤ると思うんです。だからそのパワーの邪魔をしないように、だれが観ても違和感のないように、引っかからないような字幕にするように心がけました。


©2013 Bittersuess Pictures

I:それは具体的にはどういうことですか?


川又:たとえば、作品の中にキャラクターの強い人が出てきたとします。この人はこういう口調にしたいな、と翻訳者してはちょっと欲が出るときがあります。だけどこれはそういう作品ではないなと。もちろんいろんなキャラクターは出てきますが、そこを肉付けしていっていじるというよりは、素直な言葉で書こうと思いました。
コメディ作品だと、セリフで立てたほうが面白くなる場合もあるんですが、これは素直にそのまま見せるのが一番だと思いました。

I:パワーがあるのは、スルリックを演じる少年の演技力も高いですよね。


川又:そうですね。8歳という歳でこれだけの感情を表現するのは並大抵ではないでしょうね。アンジェイとカミルという双子の子たちのダブルキャストで撮影したようです。二人とも素晴らしい演技力ですね。

I:文部科学省の一般劇映画特別選定作品にもなりましたが、学校教材などにも使用してほしいですね。


川又:今の我々からすると、当たり前のことが当たり前じゃないのが戦時中。いろいろな時代、いろいろなところで起こったことの犠牲の上に、今の自分たちの生活がある。それがたとえ日本でないところでも、ということを知らなくてはいけないですね。

I:吹替版の翻訳もやりたいですか?


川又:やりたいですね。もっといろんなことを説明できると思うんです。そうすることで理解が深まると思います。
また、ドイツ人の将校などのキャラクターも吹替だとより味のある感じに出せそうですね。

I:いろんな作品の翻訳の仕事をされてますが、今後の仕事の抱負などありましたら教えてください。


©2013 Bittersuess Pictures


川又:どんな作品でも翻訳したいです。
アクション超大作などもとてもやりがいがあるし、この「ふたつの名前を持つ少年」も強いメッセージ性があって、自分も知らなかった世界を知り、いろんなことを考えることができて、作品ごとに貴重な経験をさせてもらっています。
自分の内面が仕事によってどんどん豊かになるような・・・。
翻訳者という仕事をしていなかったとしたら、自分のアンテナに引っかからない作品には出会えないじゃないですか。それが今は自分は知らなかったけれど、素晴らしい作品に出会える。世界にはこんな素晴らしい、面白い作品がたくさんあるんだ!と感動するので、これからももっともっと出会いたいです。そのためには、自分はこれ!って決めずに何でもやっていきたいです。

I:昨今の話題作の映画やドラマの翻訳者として、名前を見る機会が多い川又さん。
川又さんはじめ翻訳者の方は、かなりの数の作品を翻訳しているにも関わらず、翻訳原稿を見るだけで瞬時にそのシーン、原文、訳の決め手などのお話が出てきます。実際仕事の中では、アフレコや試写は翻訳してから1か月以上後になることが多いため、翻訳者としてすぐに思い出し、直しなどに対応することは必要な能力だとおっしゃっていました。

戦後70年を迎える今、戦争を知らない世代でも、忘れてはいけない戦争の傷跡。それを一人の少年の勇気によって知ることができるこの映画を、ぜひご覧ください。


『ふたつの名前を持つ少年』

8月15日ヒューマントラストシネマ有楽町ほか
全国ロードショー
配給:東北新社 Presented by スターチャンネル
宣伝協力:ブレイントラスト 

【スタッフ・キャスト】
監督:ペペ・ダンカート
出演:アンジェイ・トカチ、カミル・トカチ、ジャネット・ハイン、ライナー・ボック イタイ・ティラン
原作:ウーリー・オルレブ作 『走れ、走って逃げろ』 
母袋夏生訳 岩波書店
原題:RUN BOY RUN/2013年/ドイツ・フランス/カラー/108分/
© 2013 Bittersuess Pictures

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