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【No.3】「ガールフレンド・エクスペリエンス」を翻訳して
鈴木吉昭
2000年3月 映画翻訳専科卒業
映像テクノアカデミア 映像翻訳科学科主任
【 作 品 歴 】
字幕翻訳
「サブリナ」「俺たちに明日はない」「めまい」「パリの旅愁」
「デュエリスト―決闘者―」(以上NHK)
字幕演出
「ルド and クルシ」(劇場)「ティファニーで朝食を」(NHK)
「旅情」(NHK)「DEATH NOTE」(英文字幕)
今回は、2009年外画制作事業部よりテクノアカデミア映像翻訳科の学科主任になった鈴木さんにお話を伺います。 タイトルは「ガールフレンド・エクスペリエンス」、スティーヴン・ソバーダーグ監督の最新作です。 鈴木さんはテクノアカデミアの2000年3月の卒業で、卒業以来外画制作事業部演出部字幕課で翻訳と字幕演出を続けてきました。いわばDVD時代の幕開けから今まで、字幕課の屋台骨を担ってきた映像翻訳者です。 そんな彼が、今回のような難しい作品をどのように翻訳したか、詳しくうかがってみました。
インタビュアー(以下「I」と省略):同じソバーダーグの「セックスと嘘とビデオテープ」(以下「セックスと嘘・・・」という)はご覧になりましたか?
I:そうなんですか(ビックリ!)・・・・とすると今回の翻訳は神と出会ったような感じ?(笑)・・・・
I:「セックスと嘘・・・」も筋がなく、キャラクターのわからない登場人物のオンパレードですか?
I:この作品はたぶん意識的に監督がそう作っているんでしょうね、時間はばらばら、だから通常の意味での起承転結はない、登場人物のキャラクターも無個性、ほとんどない・・・ストーリーの中でだれが重要かなんてもまるでなし(笑)・・・・・ないない尽くしで翻訳は大変だったでしょう?
I:ハハハハハ・・・
(C)2009 2929 Productions LLC,All rights reserved. I:見えてくるものは言うまでもなく、この作品の本質についてだと思うんですが、そこらへんをもう少し詳しくお話いただけませんか。
I:確かに!時間がばらばらにされ、シーンが細切れにされ、人物も細切れに され、だからなんでしょうけど人間は実体を持てず蠢くだけ、そのイメージはゾクゾクくるものがあります。
特にジャーナリストのインタビューシーンは頻繁に出てきます、つまりこの作品は、このインタビューで語られていることがそのまま映像になったドキュメンタリーだと思われます。もちろん、ドラマなんですよ、役者が演じている作り物のドラマなんですが、ドラマをドキュメンタリーの世界すれすれまで解体してしまい、ほとんど現実だと錯覚してしまう世界、これがこの作品の基本です。 つぎに、先程来言われているドラマの中の時間を切ってしまい、シーンの前後逆転がいたるところにある、登場人物も特別なキャラクターを持っていなく、ニューヨークという街に棲息するだけ・・・・ I:ハハハハ・・・棲息ですか
主人公のチェルシーはその場限りの人間関係で稼いだお金で、高級ブティックに行ったり、おしゃれなホテルに出入りしたり・・・・客は客で金融や投資なんかで夢中に時間を過ごしている、そして不安や悩みを解消するためエスコート嬢を呼ぶ・・・・ファッション性にあふれ、お金をたくさん持っている人間ばっかりが出てくる・・・・ところが人間の実体が感じられない。 ジャーナリストがチェルシーに色々なことを聞きますね。でも質問の大事なポイントに来ると、チェルシーは心を閉ざしてしまいます。心の中には何かありそうなんですけど、私は逆になにもないんじゃないかとさえ、思ってしまうんです。 (C)2009 2929 Productions LLC,All rights reserved.
I:でも、弱った素顔を見せる場面もあるじゃないですか・・・・郊外のホテルでの約束を客に振られて相当落ち込んでいましたし、別の客にはいやなことをされて、また別の客に相談に行ったり・・・いろいろ人間的なところを見せているようには感じるんですけど・・・それに、ジャーナリストも「君の内面を知りたい」なんて言っているでしょう、その問いにチェルシーは応えなかったですけど、あるようには思えるのですけど・・・・
だいたいから・・・・客はエスコート嬢の悩みなんか本当のところは知りたくもないでしょう。必要なのは満足するサービス、チェルシーもこのことはよく知っていて、悩みを押し殺し、やがて忘れて次から次へと客を渡り歩く、そして語るべきことは何もなくなる・・・・ だから、ジャーナリストの「内面を知りたい」という質問は、内面がないということを浮き彫りにしてしまう逆説のように思えます。高級エスコート嬢の本当の姿なんて何もない・・・・とすると、こんな世界ではキャラクターなんか無くていい、監督はむしろそれを表現したかったんじゃないかと思うんです。 I:わかりました、おっしゃっていることがよく分かりました。
監督はそのシーン、そのシーン毎でニューヨークで浮遊している人間達の行動の一瞬、一瞬のリアリティーを追及しているのではないか、だからやたらな説明、解釈の翻訳はさける、むしろシーン毎の台詞がそのまま分かれば良いと考えました。 I:字幕翻訳はオリジナルの台詞の取捨選択です。独立したシーンの台詞だと何を捨てて、何をとるか基準がないから判断が難しいんじゃないでしょうか。
(C)2009 2929 Productions LLC,All rights reserved.
I:強烈なシーンでした。この大恐慌の時代、チャーター機でラスベガスへの
あえて取捨選択の基準というなら、必要以上に会話の内容がわかる必要はない、そのヒントになる台詞が全部を分からせ、その場のリアリティーを浮き立たせてくれる、その台詞は何かということでした。 I:飛行機のシーンはこの作品の中で、極端に象徴的なシーンだと思います。
I:先ほど言われた3人の主要人物については、なにかキャラクター付けを工夫しましたか?
むしろ・・・・考えたのは、人物の間の関係性とでもいうべきもの・・・・主人公と恋人との関係、主人公とジャーナリストとの関係、お互いの位置取りが決まればおのずと台詞は決まってくると考えました。繰り返しますが、ドキュメンタリーと間違わんばかりのこのドラマは、各シーン一瞬、一瞬のリアリティーが命です。ニューヨークの有名なお店の看板や、外観がことさらのように出てきます。ここにエスコート嬢が出入りをして、商売を現実にしているかのようなリアリティーのためです。こんな作品に分かりやすくとか、必要以上の解釈は必要ありません。 どの映画にもいえることですが、特にこんな作品にこそ字幕はないほうが良い・・・・・(笑) I:ハハハハ!この映画も過激ですが、翻訳者も過激ですね! 最後の質問に移らせてください、この作品のタイトルについてです。「THE GIRLFRIEND EXPERIENCE:ガールフレンド・エクスペリエンス」、これはガールフレンドであるチェルシーの経験ですか?それともガールフレンドを持ったお客の経験ということですか?どっちとも取れると思うんです。
I:難しい作品を分かりやすくご説明いただき、今日は有難うございました。 |
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